8020の達成者が5割を超える昨今ですが、歯が残ることで問題になっているのが、高齢者に見られる歯の根元のむし歯(根面う蝕)です。日頃、一般歯科診療を行う中で、治療に苦慮するのもこのむし歯です。ただ単純に削って詰めればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、なかなかそうはいかないのがこのタイプ。歯の頭の部分だけ健全であるにもかかわらず、根元の部分に特化して進んでいくわけですから、歯と歯の間にそのむし歯ができた場合、手技として材料で詰めることができず(中途半端に詰めるとすぐに取れたり、再発する)、健全部分を大いに削って、かぶせ物をせざるを得ない場面も多々あります。健全な部分の歯を削るという行為は、歯科医師として少なからず良心の呵責に苛まれますので、その辺りにおいても非常に厄介なのです。
根元の虫歯の原因と言われているのが、主に以下の2点です。
もちろん、手が不自由になることで、若い頃のような正確なブラッシングができなくなることも原因として挙げられます。放置すると、知覚過敏や歯の神経のトラブル(歯髄炎)、急に歯が折れる原因になります。高齢者に多いわけですから、追々咀嚼に影響が出て、今話題のオーラルフレイル(虚弱)へ。ひいては体全体のフレイルに結び付く可能性があります。また、同部が細菌の温床になりますので、誤嚥性肺炎等の全身疾患を引き起こす根源にもなりかねません。
予防法としての基本は、月並みではありますが、歯の根元の正しいブラッシング、適正サイズの歯間ブラシの利用であり、フッ素入りの歯磨き粉(歯磨剤)を用いることでさらに効果を発揮します(フッ素濃度は、メーカー及び商品でまちまちなので注意が必要)。また、実際に歯の根元にむし歯ができたとしても、抜本的な治療が難しい高齢の方や訪問診療でよく用いる手法ですが、進行止め薬品であるフッ化ジアミン銀(商品名はサホライド)を歯科医院で塗布することで、むし歯の進行を遅らせることもできます。
むし歯は減っているという報道がありますが、それはあくまで若年者での話です。むし歯の予防法が確立できていても、未だ侮れないことを覚えておくといいかもしれません。
新潟市口腔保健福祉センター部員 駒形雄気