紙巻タバコの人体への害については皆さんもよくご存知のことと思います。様々な物質を含んだ熱い空気が直撃するので、お口への影響は大きなものです。
新型タバコが流通して5年ほどになります。いわゆる新型タバコには加熱式タバコと電子タバコがあります。加熱式は中にタバコの葉や紙巻タバコを挿入し、燃焼させるのではなく加熱してニコチン等を含んだエアロゾルを発生させるもの。一方電子タバコは専用のリキッドを加熱してエアロゾルを発生させるものです(現在日本ではニコチンやタールを含んだリキッドの販売は禁止されています)。
新型タバコに関しては、煙や匂いが少なく副流煙による周囲への影響が無い・有害物質が9割削減されている等の宣伝から、従来の紙巻タバコよりも人体への害が無いというイメージを持つ方も多いと思います。
新型タバコの人体への害については、まだ流通して間もないこともありデータが不十分なため明らかではありません。しかしWHOは注意喚起をしており、日本でも厚生労働省や日本呼吸器学会も警鐘を鳴らすなど、健康被害を受ける可能性が高いと考えられています。
では、どのような問題が考えられるのでしょうか。
タバコの葉を加熱する場合、燃焼させる場合と比べて一酸化炭素やタールの発生が減少します。一方ニコチン量は加熱式も燃焼と同等です。タバコ依存はニコチンによるものなので、依存症を治したいという観点では残念ながら効果が無いといえるでしょう。
ニコチンに関して言えば、毛細血管が収縮することで歯肉の血流量が減少する、歯周炎の病原菌として知られるP.ジンジバリスが侵入しやすい形態になる等、殊に歯周炎発症の大きなリスクです。
その他ホルムアルデヒド等の揮発性化合物も同等量検出されており、燃焼式と比べて3倍量検出されている有害成分もあります。
また副流煙が少ないというイメージですが、これは必ずしもその通りではないようです。新型タバコを吸引中の人に特殊なレーザー光を照射した実験では、大量のエアロゾルを周囲に呼出していることがわかりました。燃焼式タバコの見える煙と同様に、見えにくいエアロゾルが呼出されているわけです。呼出エアロゾル中にはニッケルやクロムなどの重金属が燃焼式タバコよりも多く含まれています。ニコチン・アセトアルデヒド・ホルムアルデヒド・PM2.5等は燃焼式タバコよりも少ない値ですが、通常大気中濃度より何倍も多い量をふくんでいます。
目に見えず匂いも無いので周囲の人が避けにくい、という意味では影響が少ないとは言い難いのではないでしょうか。
2020年4月に施行された改正健康増進法では紙巻きタバコと新型タバコを区別しており、新型タバコは吸いやすいものと捉えられがちです。しかし手に取りやすいがために結果としてニコチンを今までよりも多く摂取する結果になったり、これまで喫煙しなかった人や新成人が喫煙を始めるきっかけになったり、見えない副流煙に周囲の人が曝される等の問題を多々含んでいるものと言えるでしょう。
新潟市歯科医師会 学術医療管理部 重谷 寧子