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失活歯について

2022年10月25日

皆さんは「失活歯」をご存じでしょうか?「差し歯」というとお分かりになるかもしれませんね。歯の内部には歯髄(神経と血管)が存在し、他の臓器同様、生きた組織になります。歯の内部には血液が通っており、栄養が供給され、みずみずしい状態を維持します。なので、生きた歯が折れてくることはめったにありません。事故などの外傷や、異常な歯ぎしりによって折れてくることはありますが、稀な事例です。

他の臓器は、表層に神経が張り巡らされているので、傷ついたりするとすぐに痛みますが、歯は固い組織の内部に歯髄があるので、むし歯によって歯が溶かされても、初期~中期までは症状として感じることはありません。むし歯が進行し、歯髄まで近接、もしくは感染を起こして、ようやく疼痛が出現します。

このような場合、歯を保存するためには歯髄を除去、よく歯科医院でいうところの「歯の神経をとりますね~」という治療、つまり根管治療を行い、大きなむし歯で失った歯質を補填するために土台をたてて、被せ物をかぶせる一連の治療が必要になります。こうして機能するところまで何とか回復することができた歯が「失活歯」です。皆さんのイメージされる「差し歯」です。歯髄は除去せざるを得なかったけれど、抜かずに保存できたこと自体は最大のメリットですが、歯髄(神経と血管)がない、死んだ歯となるため、歯髄がある「生活歯」と比べて「失活歯」は今後、長い目で見るとトラブルの温床になることがあります。以下、3つのトラブルが考えられます。

①歯根破折

咬む力に耐えられず、歯の根が薪を割ったように割れてしまう。歯ぐきの上にどれだけ健康な歯質が残っているかが、このトラブルの発生頻度にかかわります。歯根破折が生じると大体の場合が抜歯せざるを得ません。ある日突然生じるので、患者さんにとっても、歯科医師にとっても厄介なトラブルです。

②抜歯せざるを得ないほどのむし歯

歯髄(神経と血管)がないので、どんなにむし歯が進行しても痛みません。痛くないからいいや、と思っていると、保存できないほどむし歯が進行します。被せ物を被せたらむし歯にならないと思っている方もいますが、そんなことはありません。被せ物の脇からむし歯が進行します。

③根尖病巣(歯の内部に細菌感染が生じている状態)の再発または出現

歯髄を除去する根管治療ですが、歯髄が入っていた根管という空洞を可及的に細菌がいない状態にするという、非常に繊細で難しい処置です。根管の形態によっては丁寧に治療しても根管内の細菌を駆逐できず、根尖病巣が出現することがあります。無症状のこともありますが、症状が出ると再治療しなくてはなりません。日本の歯科診療費は先進国諸外国と比べて激安ですが、その中でも根管治療は差が激しい治療と言えます。手技や使える材料、薬剤も徐々に差ができており、成功率にも差が出始めています。

 

以上挙げたことから、失活歯を増やさないためには、痛くなったら歯科医院に行くという従来の考え方ではダメで、重症化する前に治療を受ける、その後は健康な状態を維持するためにメインテナンスに通院することが大事なのです。ちなみに、国民病といわれる歯周病も重症化するまでは、全く痛まないので、歯周病に関しても、上記のような考え方が大事になります。

 

新潟市歯科医師会 学術医療管理部 伊藤 陸

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