ブラキシズムとは、歯ぎしり、食いしばりの総称です。ほとんどの人がブラキシズムをしていると言われています。もちろん私もしています。このような職業に就いているので、ブラキシズムをした日は未明に目が覚め、決まって左下奥歯に鈍痛、咬合痛がでます。私の場合は、横向きで寝たときに多く起こり、起床から1時間くらいで違和感は消失しますが、かなりの負担が歯にかかっていたと自覚します。
さて、皆さんはブラキシズムの自覚はあるでしょうか?
私のように朝方に歯の鈍痛、咬合痛を感じたり、普段から冷たい水でしみることが出現したり消失したりしている場合は、自覚がなくてもブラキシズムしている可能性があります。
この程度であれば、まだかわいいものですが、なかには強烈なブラキシズムによってエナメル質は削り取られ、象牙質がむき出しになっていたり、歯が欠けてしまったり、神経と血管がある生きている歯(生活歯)を真二つにかち割ってくる患者さんもいます。
幼少期からブラキシズムのある方は、歯が完全に萌出する前に、咬合が完成してしまい、歯が歯茎にめり込んでいるような方もいます。この場合、奥歯は特に歯の高さが短くなっており、虫歯になっても被せたりする治療が困難な場合もあります。ひどい場合は、手術して歯の高さを獲得することもあります。術者も患者さんも四苦八苦します。
物をかむ、飲み込む行為は、生きるための根幹をなす行為であるため、いくら足腰が弱った高齢の方でも、最後までかむ力は衰えません。
腰が曲がり、杖をついて来院されるような患者さんが、プラスチック主体の保険の義歯をバキバキに壊してくるようなことはよくあることです。
虫歯や歯周病に関しては、予防法はある程度確立されており、よく磨くこと(プラークコントロール)と砂糖の摂取制限(シュガーコントロール)で防ぐことができます。
このブラキシズムに関しては、患者さん本人もやりたくてやっているわけではなく、自覚も乏しいことが多いため、予防は困難です。
歯と歯が直接当たらないよう、ナイトガード、オクルーザルスプリントを夜間使用して頂き、歯がすり減ったり、欠けたり、割れたりするのを防ぐことになりますが、そもそも自覚がない方も多いため、使用が習慣化されないことも多く、難しい問題です。
ブラキシズムが強い患者さんは、治療も難しく、治療後もトラブルが絶えないことが多いため、歯科医師としては悩みの種です。
縄文時代などでは、咬合力が強く、何でもかみ砕けるような人は食べ物を摂取するという意味においては有利に働いていたのかもしれません。現代となってはやわらかく調理できますし、人生100年時代とかいわれるなかで、必要以上の咬合力は歯の寿命を縮めてしまうでしょう。認知症と同じく、人間の寿命が延びてきて、顕在化してきたような印象を持ちます。
家族から夜間に歯ぎしりの音を指摘されたとか、顎の骨が隆起してきた、起床時に顎が疲れている、かむと歯に鈍い痛みがある、冷たい物でしみるようになってきた、歯が欠けている、被せ物がよく外れる、などがあるとブラキシズムしている可能性があります。
地味にやっかいなブラキシズム、少し注意をしてみてはいかがでしょうか。
学術医療管理部 伊藤 陸